Review

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吉田サトシの初リーダー作「Meant To Be」は、自身が持っているヴァラエティに富んだエモーションを、ジャズギターの枠に囚われず自由に表現した快心のアルバムである。

2001年に弱冠二十歳でギブソンジャズギターコンテストに優勝して以来、吉田サトシは日本ジャズ界期待の若手ギタリストとして活躍してきた。最も古い経歴としては、アクアピットの2代目ギタリストを務め、同メンバーでKEYCOのバックも経験している。最も新しい経歴には、日野皓正AFTER SHOCKバンドのサポートなどがある。プロとなっての10年間は、TOKU、大槻カルタ英宣“ヴァーティカル・エンジン”など多くのバンドのレギュラーギタリストを務める他、AI、古内東子のサポート、自己の活動して小泉"P"克人、小森耕造、Nobieと共にUNI-BIRTHを結成してアルバムをリリースしている。

シーンに登場した二十歳の時点で既に楽理に通じ、“優等生”なギターを弾いていた吉田サトシが、枠に囚われない自由さを見せ始めたのはニューヨークでの滞在を経てからだ。二十歳の頃に空ピック(リズムの中で空振りを組み込みリズムをとること)をしながらきちんとしたカッティングをしていた彼が、NY帰国後に弾力のあるリズムでグルーヴィなカッティングをしているのを見た時に、彼の中の著しい変化を目の当たりにして嬉しくなった。譜面に採譜できないニュアンスたっぷりのプレイがそこにあった。

2009年の帰国後、TOKUバンドの同僚柴田敏孝(key)、NYから帰国したFUYU(dr)、ボストンから帰国した後藤克臣(b)とBAR AMRTAで深夜ジャムセッションを繰り広げ、彼らを起用した初のリーダーアルバムの構想を持つようになっていった。録音は2011年4月、東日本大震災から間もない頃におこなわれた。その影響は復興に向かうポジティヴなヴァイブレーションとなってこのアルバムに少なからず表れていると思われる。

ギタリスト、作曲家、プロデューサーとしての吉田サトシを意識しながら、本人の言葉を交えつつ曲を見ていきたい。吉田サトシの考える自分らしい音楽を追求した全11曲はジャズ、R&B、ヒップホップ、アコースティック、ブラジリアン、ワールドテイストなどそれぞれ趣きが異なり、あらゆる要素が一枚のアルバムに気持ち良く同居している。スーパージャズギタリストとして弾きまくることなく、全体の半分の6曲でゲストヴォーカルをフィーチャーしているが、ある意味歌声も楽器のひとつとして捉えている感がある。大体どの曲にも共通しているのは、気の利いたリフのギターイントロ、歌の背後に隠し味的に散りばめられたギターによるフラグメント、エンディングもギターならではの終わり方をしていることが多い。ポップな歌モノのテイストの中に上手にギターを混ぜ込み、良質なギターミュージックに仕上げている。

1) オープニングトラック"Meant To Be"のマヤ・ハッチのスポークンワードは、吉田サトシの気持ちを代弁した今作と音楽への思いの決意表明だ。「歌詞が出来上がる前に震災が起きて、不安や恐怖を感じたなかミュージシャンとして音楽出来る喜びや、誰かがいるから今の自分があるとかマヤちゃんと語り合いました。その事を踏まえて彼女に世界に向けてのメッセージを伝えて欲しいとリクエストしました」後半に披露されるクリーントーンでスムースジャズチックな吉田のソロも流麗だ。

2) アコースティック・ギターと矢幅歩のスキャットが一瞬にして清涼な風を運んでくる"El Viento"は、パット・メセニー的な広がりの世界観がある。「歌詞を乗せようか迷いましたが、表現したかったのは景色や大自然だったのであえて歌詞を乗せませんでした。聴いてもらう人にいろんな風景を想像してもらいたかったからです」矢幅の声を楽器として上手く曲に取り込んでいるとも言えるし、吉田のギターもまた歌であるとも言える。

3) UNI-BIRTHのバンドメンバーNobieがスキャットと日本語で歌う"Arigato"は、一度彼女のアルバムで録音している曲を今回アレンジして収録。「一緒に音楽できること、感謝することの大事さ、例えば家族や友人の事を話していました。Nobieのアルバムは歌詞がフルバージョンでギターとパーカッションで録音しましたが、自分のアルバムでは歌詞は最後に出てくるようにして、少しアフリカやワールドミュージックのバンドアレンジをして録音しました」この曲もやはり声を効果的に楽曲のなかに取り込んだプロデュースをしている。温かみを感じる完成度の高い曲だ。

4) R&Bフレイバーあふれる自身の活動の他にCM音楽等も数多く手掛けるギタリスト長山剛士と、意表を突いたアコースティック・ギターでのデュエット。二人のギタリストのインナーヴォイスが聞こえてくる名演。「2004年から4年弱ほど、在籍した鈴木勳さんのバンドでもともと兄弟子だった長山剛士さんがアコギデュオのギグに誘って頂いて、そのサウンドがとても好きだし、良い所を引き出してもらえる所があったのでお願いして録りました」

5) FUYUのドラムが圧倒的に現在のニューヨークのフレイバーを感じさせる、今作中もっともアーバンな香りを漂わせる曲。この雰囲気に溶け込むようなソロを存分に弾き切った後、すぐにヴォリューム奏法に転じ柴田のピアノソロの後ろでワウを踏みながらカッティングを続ける吉田のプレイがファンキーだ。空間を滑らかにマスキングする後藤のベースも印象的。後半のソロはR&Bの歌のようなメロディを感じさせながら、自由にインプロヴァイズされて紡がれていく。「よく深夜にジャムっていたアムリタをタイトルにしました。レコーディングの前日に書いた曲で、1曲目に録った曲です。リハも当日1回くらいしかせずに、彼らならサウンドしてグルーブするだろうとイメージしてつくりました」

6) フェードインしながら入ってくるFUYUのリムショットと柴田のフェンダーローズが深夜の雰囲気を醸し出す小曲。ギターもシンプルなリフレインに終始しているが、とても印象的で余韻が耳に残る。「7/8beatだったのでみんながセブンエイトセブンエイト言うので、ちょっとFMのジングルっぽいサウンドだな思って78.0にしました。調べてみると、FM千葉でした(笑)」

7) マヤ・ハッチのヴォーカルがとてもエモーショナル。歌の隙間を縫い、軽くディレイをかけた緩やかに上っていくギターフレーズの無駄のなさが秀逸。歌にギターが応え、ギターに歌が応える見事なコール&レスポンスがある。ギターソロはヴォーカル以上にエモーショナルで、今作中白眉の出来映え。「マヤ・ハッチの歌や人間性に感動し、曲を書きたいと思って2人で協力して作りました。季節の変わり目に風の匂いが変わって、その時ちょっとせつなくなったりするっていうのは誰もが共感する事なんではないか?とマヤちゃんに伝えました。その話を汲み取って、マヤちゃんがNYから東京に来る時の話を詩に書いてくれました。最初に聞こえるSEの音はNYにいくマヤちゃんにお願いしてNYの公園の音、飛行機の音を録って来てもらいMIXしました。ウッドベースは川村竜にお願いしました」

8) スムースジャズ的な小曲。「都会の急いだ感じ、これも運転中にFMから流れて来そうな雰囲気になったのでCar Trafficにしました」アメリカのタクシーやバスでは確かにこんな曲がよく流れている。

9) 吉田サトシの多彩なギターを1曲に詰め込み、後半のNobieのコーラスも最高に素晴らしい、アルバムのハイライトと言える曲。ディープでグルーヴィなドラムとベースの背後で浮遊するフェンダーローズとギターによるアンビエントを散りばめたイントロ、一転してゴキゲンな乾いたシングルコイルサウンドのギターカッティング、リズムをキープしながら右chで繰り返されるサンプリングした雰囲気のベンディング・フレーズが効果的。「前からNobieと貯めていたネタでコンセプトは、70's、80's、90's、00'sのグルーヴ・ミュージックを行ったり来たりするタイムマシンとかDJの感覚というか、チャンネルを捻っている感じを表現した曲です。ソロではボコーダーを使いました。ちょっと宇宙船と交信している感じを出したかったので」歌とギタープレイヤーの曲の中での正しいマッチングがここにも見て取れる。

10) Nobieの録音でブラジル人ギタリストのトニーニョ・オルタと共演したことにインスパイアされて作った曲。ここではもちろんナイロン弦。最後にはメンバー全員の陽気な大合唱がある。「最後の雄叫びをあえて残しました。雄叫びはカツとFUYUですが、改めて彼らはアニマルだと確信しました」

11) 川村竜の野太いベースイントロから始まる、今作で唯一いわゆるジャズと言える曲。「レコーディング当日に川村竜とやるなら、何かスウィングの曲やりたいなと思いスタジオに向かう車でできたジャズブルースです。譜面も無く、口頭で説明して録ったまさに一期一会的なセッションです」トラディショナルなジャズフレーズも満載で、ジャズギタリストとしての出自をしっかりアピール。柴田のピアノソロも熱い。

自分の音楽を、ギタリストのエゴを押しつけるのではなく、信頼できる同世代の仲間との一体感を重視して仕上げたところに彼の人間性が見てとれる。「アーティスト=吉田サトシ」としての創作に重きを置いた結果、世の多くのギターアルバムと大きく違うテイストになったが、どこを聞いてもギターだらけなのだからこれは立派なギターアルバムだ。これだけ質の高い歌モノを作曲プロデュースできて、シンガーとフィットするギターを弾けるギタリストはそう多くはいない。プロデューサーとしても名刺代わりになるだろう。おそらく吉田サトシがギタリストではなく、シンガーやピアニストの道に進んでいたとしても、このような調和の作品ができていたに違いない。ここにあるのは愛や友情や信頼のような人間の正のエモーションであって、アルバム全体から彼の持っている優しいハートや誠実な人柄が滲み出ている。それは「Arigato」という曲のタイトルに結実していると思うのだ。

松永誠一郎
Apr. 19th 2012
Yokohama



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